「行くぞ」
 えっ?
「ちょっ…。なに?」
 ふいにわたしの腕をつかんだのは――恭太!?
 恭太だ!
「JR宝塚、41分」
 反射的に見た腕の時計は10時32分。
 (やだ、恭太!)
 恭太は、わたしの腕をつかんだまま、どんどん早足になる。
 (ちょっと、掛居!)
 引っぱられてななめになりながら、振り向いてももう掛居は見えない。
「ゃ…」
 すぐに振り向く余裕もないほどの駆け足になって。
「ちょっと。やだ。…ねぇ!」
 ひとごみを障害物競争のように走りぬけるわたしたち。

 阪急の駅をぬけて、バス乗り場を通り過ぎて。
 どこを走っているのか。
 どこにつれて行かれるのか。
 わからないまま券売機の前に着いたときには、恭太につかまれていた腕はしびれて、まっすぐ立てないほど胸が苦しくて。
 はぁはぁ息をついでいるうちに、また腕を引かれて改札に押しこめられた。
 あとから入ってきた恭太がまたわたしの腕をつかむ。
「ちょ…」
 まだ走るの?
 一度止まってしまったせいで、足がガクガクする。
 苦しいのはもう走らされたせいだけじゃない。
 (どうなってるの?)
 (なにがおきてるの?)
 恭太だよね?
 わたしの腕をつかんでいるの……。
 恭太なんだよね?