わたしたちの好きなひと

「すっご……。あれ見なよ、稲垣」
 岡本まで興奮してわたしの腕をつかむ。
 確かに。
 小さなお花屋さんから次々出てくるのは、見たこともない、ホールケーキのように盛られた花籠。
「すごいね、きれいだね。あれ、どうするんだろ」
「なに言ってるの。ふつうに考えたら、お差し入れでしょうよ」
 岡本が小声になるのは、掛居にタカラヅカが好きだと言ってしまったからだろうけど。
 その掛居は恭太の腕に腕をからめて、のけ反る恭太に無理やりお土産物屋さんをのぞかせている。
 とっくに山田や美術館組のことなんて、無視することにしたんだろう。
 かわいそうに、ついに岡本すら置き去り。
 恭太が掛居に従っているのは、岡本のそばにわたしがいるからかな。
 (だったら……)
 離れてあげないと。
「先生! ちょっとあの金髪のお兄さんたちのほう、のぞきに行ったらダメですか?」
「どれどれ。あー、稲垣さん。私たち掛居くんを見慣れているので間違えてしまいそうですが――、失礼ですよ。あのかた女性では?」
「ぇえええ」
 本気で驚いてしまった。
 だってスーツを着てるよ?