「噛みしめちゃって。ぷっしゅー。…ほれ、空気ぬけよ」
 笑っているけど笑っていない、不思議な茶色い瞳。
 わたしに背を向けて歩きだした掛居のうしろを、わたしは3歩おくれて、ついていく。
「そうやって。…なんでも考えなしに、するっと言っちゃうのが、シューコの悪いところで、いいところ…だな」
 それで恭太を傷つけた。
 恭太を信じなかったわたし。
 (そうだ)
 わたしは恭太の半年を信じなかった。
 恭太はちゃんと見ぬいていた。
 友だちだとか。
 好きだとか言っておいて。
 わたしはどこかで恭太をばかにしてたん…だ。
「おかげで、あやまってばかり……」
 あやまっても、おそいこともある。
 もう…あやまれないことも。

 掛居がズボンのポケットに両手を入れて立ち止まる。
 空を見あげた掛居の髪が風に舞うのが、とても、とても切ない、さびしい光景に見えて。
 それは、だれも掛居のとなりには並べないからなのかなって。
 ふと思う。
「シューコ……」
「ん?」
 横に並んだらいけない気がして。
 追い越したら、いけない気がして。
 3歩うしろでわたしも立ち止まる。
「おまえね。いま、ごめんジョーダンって、あやまらないと……。一生おれから離れられなくなっちゃうよ?」
「じゃぁ、あやまらない」


 振り向いた掛居の泣きそうにゆがんだ笑顔は、見たことないけどきっと、百万本の薔薇の花よりキレイだ。

 男と女でも。
 親友になれることも、ある。

 そして……、
 同じひとを好きだって――――。