「…これ、拓弥が渡しとけって。次のホームの前に配っといてほしいんだと」
「なに、それ?」
ボールが廊下にぽたん…と落ちて。
恭太の青いアディダスの室内履きの下でおとなしくなる。
「いやー、やめちゃうのぉ? 今くん」
「えー。もっと見たーい」
わたしですらやかましいと思う女の子たちを無視して、恭太が制服のズボンのお尻ポケットから取り出して、わたしにつきだしたもの。
「あーあ。まるまっちゃって」
B4用紙の束は、クラスのみんなに配るプリントのようだ。
でもね、恭太。
今日はわたしの誕生日だよ。
「…ありがと」
わたし17歳になった。
渡されたプリントが、恭太にプレゼントをもらったみたいだって。
一瞬でも思ったことが、自分でも恥ずかしくて胸が痛い。
(ばかっ)
すぐさま否定して、手のなかのプリントをくるくると逆巻き。
「…悪ぃ。そこまで気がまわらなかった」
「……ぁ…」
イヤミだったかも。
気づいたときには恭太はもうわたしに背を向けて、廊下の自分のロッカーにボールを片づけに行っていた。
「稲垣さんたら。今くんに持ってきてもらったのに」
「そうだよ、秋子。その程度いいじゃない」
ヒソヒソ言われても、わたしは放っておくと丸まるプリントの束を必死にのばしながら、黙っているのがせいいっぱい。


