(んもう)
 いつも、どんなときも恭太を独占したい掛居。
 笑っちゃうよ。
 かわいいったらありゃしない。
 うらやましいな。
 恭太のまえでは、いつでも素直な掛居がうらやましい。
「……あ、じゃあ先生、わたしたち降りますから。……行くわよ、掛居くん、(こん)くん」
「――ん? 降りるんですか? みなさん、支度して」
「え。いや待って。ちがいます!」
 岡本があわてるけど山田は立ち上がってドアに向かった。

 ドアが開いて。
 颯爽と降りていく山田に美術館組がおどおどと従う。
「マジかよ、おい」
「どうすんだ、拓弥(たくみ)
 混みあうドアをさけて、ひとつうしろから降りたわたしは、そんなことがみんな、おかしくて、おかしくて。
 笑いながら泣いていた。
「……ちょ、稲垣! ――――ぇ」
 掘りしめた手のうえに、ぽたぽたっとこぼれた涙に、振り向いた岡本が気がついて。
 駆け寄ってこようとするのを手でストップ。
「なんでも、ない。クシャミ、がまんした。ヘヘ……」
 岡本は、黙ってだまされてくれた。
 くるっと(きびす)を返して山田たちを追う。
 他には、だれもわたしなんて気にしてくれる子はいないと思っていたのに。
 めずらしそうにホームのポスターをながめながら、掛居は改札に向かわずわたしに近づいてくる。
 そして。やっぱり。
 ポスターには興味がなかった証拠に、わたしの横で立ち止まってつぶやいた。
「…ちょっとは進展、あったみたいだな」
「ひ…どい――…」
 ひどい。
 掛居なんか大きらい。