わたしたちの好きなひと

「それはシューコ用。夏に買ったやつだけど。ちゃんと保管してたから湿気てはないはず」
 花火。
 花火、はな…び……。
「行くぞ、拓弥(たくみ)
「…………」
 恭太がいま踏みだした足は、どこに向かうの?
 中3の5月?
 でも、そこにわたしはいなかったよね?
「行こうぜ、シューコ」
 掛居に背中を押されても、わたしの足は動かない。
「シューコ?」
「だ…め、だよ」
 わたし、だめだよ、掛居。
 花火は恭太と掛居の思い出だ。
 わたしと上書きしたら…いけない。
 わかるでしょ?
 掛居は、首を横に振り続けるわたしを、じっと見た。
「悪い、恭。ちょっと――…」
 掛居の目、わたしを見つめたまま、恭太に呼びかける。
 お願い、掛居。
 ごめんね、掛居。
 わかるでしょ?
「やっぱりバケツいるな。恭太、おまえ、シューコ連れて先に行ってて」
 掛居――!?
 いやっ。
「待って、掛居」
 掛居の背中が、どんどん廊下を遠くなる。
 わたしを置いていくの?
 恭太とふたりにするの?
 ひどいじゃない。
 こんなときにいじわるするのは、ひどいよ。掛居。
 ちゃんと気を使ってよ!