わたしたちの好きなひと

 せっかくみんなが手分けして探してくれるって言ったのに。
『旅行の目的は修学です。みなさんは見学をお続けなさい』って。
 それじゃ、わたしの修学はどうなるのよ。

 ウォーリーといっしょに長い階段を転げるように走りおりて。
 ウォーリーは南下。わたしは北上。
 ふたてに別れてから、最初5分くらいは走りまわったけど。
 ふと我に返って立ち止まったとたん、吹きだした汗で背中までびっしょり。
 お昼時の参道は観光客でいっぱいだ。
 走るほうがご迷惑。
「自販機ぃぃぃ」
 お弁当も、お抹茶も、お菓子もどうでもいい。
 せめて、水を。
 掛居、自販機、掛居、自販機。
 地元の名物店。
「ウォーリーより先に、見つけなきゃ……」
 掛居、自販機、掛居、自販機。
 特産品メニューの店。

 資料のマップも確かめながら、いいかげんお腹の虫も鳴らなくなったころ、なにを探しているのかさえわからなくなってきたわたしの目に飛びこんできた黒い塊。
 あと2軒、目星をつけた掛居の気に入りそうなお店の、橋のたもとのほうの1軒から出てきた、いかにも満腹で幸せそうな制服のふたり。
 ズボンのポケットに片手を突っこんだ、同じような背丈で、同じように清々しい笑顔の……ふたり。
 (あ…んた、たちぃぃぃぃぃ)
 にらみつけるわたしに気がついて。
 笑いながら手を振りだしたのは、もちろん掛居。