わたしたちの好きなひと

 いつも冷静な岡本の声も、ちょっぴりうわずっているのが、すっごくうれしくて。
「ねえねえ。お弁当の前に、みんなでかわらけ投げようよ」
 思い出をね。
 作ろう。
 自分から言えていた。


 最後の1枚に挑戦しようとしたとき。
「ミズ稲垣! 稲垣さん!」
 目もくらむ紅葉にはまったく似合わない、かなきり声に名前を呼ばれて。
「――はい。なんでしょう、山田センセ」
 返事をする声が1オクターブほど低かったのは許してほしい。
「…っぜー、っぜー、もし…やと、思います。がっ……ぜっ、ぜー」
「…………」
 なにをまた、そんなに息を切らすようなことが?
 いやな予感しかないから、もう逃げたい。
「あな…た、掛居くん、知りません?」
 (うっ)
 その名をわたしに?
 やめて、やめて!
「知りません! こんなにあちこち分散してるしっ。男子のことまで知りませんよ。…みんな、お寺になんか興味ないんですからっ」
「それですよ、それっ!」
 (いやだ)
 もう予感どころじゃない。
 この、ウォーリー山田の興奮ぶりは、もうやつら、なにかしでかしてる。
「いま下でちょっと、耳にしたんですけどね。ふもとの料亭に、高校生が、いたって、言うんですよ!」
 センセ、落ち着いて!
 その、血管が切れそうな真っ赤なお顔。
 わたし、トラウマなんですぅぅぅ。