「あの席に座っている人は今日はお休みですか？」

すみれが隣の席の男子に訊ねると、男子は「いや、遅れてくるみたい」と返してくれた。そして、あの席に座っているのが日本人ではなくドイツ人だと教えてもらった時、すみれの心が震える。

『君のことを愛してるんだ』

ドイツにいた頃の記憶が蘇る。自分よりずっと高い身長、金髪に青い瞳の美しい顔立ちの男性が浮かぶ。抱き締められたあの時の温もりを思い出し、すみれは悲しくなってしまった。



授業が終わり、ようやくお昼休みとなる。この学校には食堂があるため、そこで世界の国々の料理を楽しんだり、お弁当を作ってきて友達と食べたり、自由だ。

転校生ということで、常に休み時間人に話しかけられていたすみれは少し一人になりたくなり、誰かが話しかける前にお弁当を持って教室を飛び出す。そして中庭へと向かった。

この学校は綺麗な中庭で有名だ。大きな木が一本あり、綺麗に手入れされた芝生や花壇に咲いた花が多くの人の心を癒している。その話を聞き、行きたくなったのだ。