「初めまして、丹羽(にわ)すみれと言います。ドイツでずっと暮らしていたので、日本のことを教えてもらえると嬉しいです。仲良くしてください」

昨日の夜、何度も練習した言葉を言い、すみれは頭を深く下げる。教室からはパチパチと拍手が響いたことにホッとしつつ、すみれは先生に指定された席に着いた。隣の席に座っていたのは男子生徒で、すみれを見て頰を赤く染めている。

すみれは高校一年生になるまで、両親の仕事の都合でずっとこの日本から遠く離れたドイツで暮らしていた。日本に帰ってきたことは一度もなく、慣れないことばかりだ。

すみれが通うことになった高校は、日本人だけでなく海外から来た人も多く通っている。そのためか、同じクラスでも茶髪や金髪があり、授業もほとんど英語で行われる。おまけに制服もなく、みんな自由な服装で登校している。

(この学校なら、何とかやっていけそう)

日本人だけの空間ではないことに安心しながら、すみれは教室を見渡す。すると、一席だけ誰も座っていない席があった。廊下側の真ん中の席だ。