「木梨…颯…」

俺はそう小声で呟いていた。
2人の恋人になった仲を見るのがこんなにも苦しくてジリジリと心が軋む音がする。
俺だってわかってた…木梨がちょっと寒がっている事くらい。
俺だって自分のマフラーやカイロだって
渡してやりたい。



「ねぇ、圭介君ちょっと来て。」



「長谷川…?」



「みんなごめん、ちょっと圭介君に」
「頼み事あるから借りるね!」



「あっ、うん行ってらっしゃい。」





「長谷川…頼み事って…?」



「頼み事なんてないよ。」


「じゃ何?」


「圭介君に聞きたい事ある。」


「急になんだよ…。」


「圭介君、雫の事相当好きでしょ?」


「なっ!なんで!?」



「なんでって言われたって…」
「バレバレだよ?」
「雫以外には気付かれてたんじゃない?」



「うん…慎吾にも言われた。」
「颯にも勘づかれて好きなんだろ?」
「って聞かれてちゃんと答えたよ。」


「圭介君ってさ、中学の時から」
「雫の事好きでもしかしてこの学校を」
「選んだのも雫がいるからじゃないの?」



「は!?」
「長谷川なに言ってんの!?」
「そんな事できるわけないだろ?」
「あいつ…受験シーズンの時には既に」
「学校来てなかったし。」


なんなんだよ長谷川…お前の勘鋭すぎるだろ。
だけど…たまたまだ…木梨と同じ学校になったのも。
だってその頃はもう俺の中では木梨の事諦めていたし。



「確かに雫は、その時から学校は」
「来ていなかったよ。」
「だけど、圭介君さ1度だけあの時」
「私に話しかけてきた事あるの」
「覚えてる?私の友達がたまたま」
「みんな休みで1人でお昼ごはん」
「下駄箱近くのベンチで食べてた」
「時の事…。」




「そんな時あったっ…けあっ…。」




「思い出した?」
「あの時、わざわざ圭介君私のところに」
「来て長谷川ってどこの高校受験」
「すんのって聞いてきたよね?」
「あれは私がどこ行くかを知りたいん」
「じゃなくて、雫がどこの高校行くのか」
「知りたかったんでしょ?」


「そんなんで知れるわけないだろ!」



「いや、知れるよ?」
「だって私と雫は常に一緒だもん。」
「私がここの高校行くって行ったら」
「行くだろうし、逆に雫がここの」
「高校行くって行ったら私も行くから。」
「それが圭介君の中では確信してたのよ」
「だから雫がどこの高校に行くか」
「知りたかった。」
「そして同じ高校を受験した。」



「だけど、俺はあの当時確かに木梨の」
「事好きだったけど諦めたんだ。」



「圭介君は諦めた、もう雫への気持ちは」
「ないって無理矢理頭に叩き込んでた」
「だけで実際は諦められていないし、」
「逆に好きな気持ちが膨らんでた。」
「だから無意識に行動にとってた。」
「だって圭介君の偏差値でここの学校」
「受けるの違和感あったし、あの当時」
「まだ雫と圭介君が仲良くなる前に」
「圭介君が男の子達と話してるの聞いた」
「事あるもん。」
「玉城高校受けるって。」
「超偏差値高い名門高校でしょ?」



「長谷川って凄いな。」
「降参だ…そうだよ。」
「だけどあの時は本当俺、諦めたって」
「思ってた。」
「だから無意識だったんだなって思う。」