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「よし、全員おねんねしたな?」

 御者は、小窓からアーシェリアスたちが気を失っているのを確認し、御者台から降りると馬車の扉の鍵を開けてそっと中の様子を伺った。

「つーか、なんでこんなに人数いるんだぁ? 話と違うじゃねぇか」

 眉根を寄せて困惑する御者はエヴァンを見て「こいつは絶対違うだろ。気色悪い」と引きずり下ろし街道の脇に寝かせる。

「あとは……全員女だな。目的の奴がどいつかわかんねーし、とりあえず連れて行くか。まあ、みんな金になりそうだしな」

 そう言うと、再び鍵を閉めて手綱を握った。

「お頭、褒めてくれるだろうな。こんな上等な女たち連れて帰るんだ」

 機嫌良さそうに独り言ちた御者。

 再び馬車が動き出す。

 何も知らず眠り続ける一行は、目的地に着き大きな車輪が止まってもなお、しばらくは目を覚ますことはなかった。

 そして、まさかこの時、小さなスパイが跡を追っているなど、御者は気づきもしなかった。