「アーシェ」

 ザックは女装しているのを忘れているのか、元の声質のままで声をかけると不機嫌そうな顔でアーシェリアスの手首を掴む。

「行くぞ」

 突然どうしたというのか。

 アーシェリアスは、手首を強く握るザックに戸惑ってしまう。

「ザック様、お待ちください」

 その去り際を、アルバートの声が引き止めた。

「俺は今ザクリーンだ」

 堂々と男声で言い放ちながら女であることをアピールするというチグハグさに、さすがのアルバートも苦笑するしかない。

「ザ、ザクリーン様。祝いの席を用意しますので、馬車が到着次第お乗りください」

「祝い?」

「ええ。コンテスト優勝のです。ぜひ、僕に祝わせていただきたく」

 アルバートがそう言って一礼した直後。

「あーっ、いたいた。アーシェ! 見て! このヘッドドレス可愛くない?」

 市場の店で手に入れたのか、コサージュをあしらった華やかなヘッドドレスを被ったノアが駆け寄ってきた。

 マンゴーを齧るエヴァンもノアの後ろから合流する。

「なんだアルバート、来ていたのか!」

「ああ。ミアが、アーシェが出るかもしれないから応援に行きたいと言ってな。というかエヴァン、近くで見ると気持ち悪さが増すな」

「それはあれだな? 本当は好みだが意地を張って素直になれないという」

「断じて違う!」

 アルバートがうっとおしそうな視線をエヴァンに向ける中、アーシェリアスはどうにか顔だけは平静を保っていた。

(応援は嬉しいけど、フラグは持ってこないでほしいのよ!)

 なんと言ってもミアには悪役補正がかかっている。

 下手に関われば自分の身が危ういのだ。