「あ、あははー。色々事情があって……。本人の為にもそこは触れずにお願いします」

 アルバートは『一国の王子が何をしているのだ』と言いたげに眉を顰めたあと、「あれは無理があるだろ」と呆れた眼差しでエヴァンを見た。

(私のワガママのせいでふたりが変な目で見られてしまった……)

 アーシェリアスはごめんなさいと心の中で謝罪する。

「それにしても、料理はもしかしてアーシェが教えたものか?」

「ええ、そうです。よくわかりましたね」

「当然だ。僕もお前の作る珍しい菓子や料理を味わわされたからな」

 言われてみれば、アルバートにもどら焼きや野菜と和風だしのテリーヌを差し入れたこともあった。

 全て兄、レオナルドの為に作ったついでだが。

「まあ、お前が僕の為に作ったそれらは嫌いじゃなかったぞ」

 勘違いして元婚約者を褒めるアルバートの横で、黙って話を聞いていたミアの片眉がピクリと上がる。

(ミアがイライラしている⁉)

 脳裏に過るゲームで見た破滅エンドの光景。

(ダメダメダメ! 家族や屋敷のみんなに迷惑をかけたくない! 早くフラグをへし折らないと!)

 ミアの機嫌を上げた方がいいのか、ここから離れるのが得策か。

 いっそどちらもやってみようかとアーシェリアスが口を開いた時、ミアがにんまりと微笑んだ。

(あ……なんだか、嫌な予感が)

 口を開いたまま静止するアーシェリアスの予感は的中。

「ねぇアルバート様! 私、アーシェと別の場所でゆっくりお話しがしたいです」

 ミアがとんでもないおねだりをして、アーシェリアスは心の中でムンクの叫びにも勝る絶叫を上げた。

(やめてえぇぇぇぇぇっ!)