「……え。記憶がないって……でも、自分が誰かはわかっているんですよね?」

「もちろんわかっているよ。ただ、失くした記憶があるのは確かなんだな。何かのために力を使った」

「どういうことですか?」

 首を傾げたアーシェリアスは、神様を道の端へと誘導しつつ尋ねた。

「んー、簡単に説明すると、神界に生きる者たちは、天命に背くような何かに力を使う場合、代わりに自分の大切なものと引き換えにしなくちゃならないんだ」

 どうやら神界にも力を使うにはルールがあるようだ。

「天命に背くって、何に力を使ったんですか?」

「それも覚えてないんだー」

「えっ、つまりそれって、力を使った目的が、神様の失った記憶そのものってことなんじゃ」

「多分そうだね~。だから、なんだったんだろうって気になって、こうしてあちこちの世界に飛んで探してるんだよ~」

 のほほんとした口調で話す神様に、アーシェリアスは眉を下げた。

 記憶を失くした上、何のために力を使ったのかも不明となれば、それは気がかりだろう。

 明るくてマイペースな印象が強いだけに、何だか切ない気持ちになる。