「試しに練習してみない?」

 ノアの勧めに、アーシェリアスはノリノリで首を縦に振った。

「そうね。やってみましょう!」

「んじゃ、定番の恋バナしてみよー」

 ノアはそう言うと、窓の外を歩く人を見下ろす。

「キャー、アーシェ! あの彼素敵じゃない?」

 顎に両手を寄せて、いきなり練習をスタートさせた。

 しかもアーシェリアスまで巻き込んで。

 まさか自分に振られると思っていなかったアーシェリアスは、急いでノアに合わせる。

「ほ、本当ね~。ザクリーンはどう思う~?」

 アーシェリアスがそれとなく話を振るも、ザックは仕方なさそうに窓の外を覗いた。

「まったく興味ない。男だろ」

「いや今、女の子の練習中でしょ」

 ノアが即座に突っ込み、すぐにエヴァンを振り返る。

「エヴァは~?」

「筋肉が足りてない。俺の相棒になるには失格だな」

 仁王立ちで逞しい腕を組みながら答えるエヴァン。

 ノアは目を座らせてふたりを見た。

「やる気あるの?」

「正直ないな」

 ザックは即答するも、苦笑するアーシェリアスを見てからそっと溜め息を吐いた。

「だが、コンテストではできる限りやってみる」

 優勝賞品が何なのかはまだわからないけれど、幻の料理の手がかりに繋がる可能性もなくはない。

「ありがとうザック! エヴァンさんも外見の奇妙さで追い返されないよう頑張りましょうね!」

「おい、だから思いやりはどうした」

 再びアーシェリアスの反撃を受けるエヴァンが指摘する。


 かくして、女性らしさは身につかなかったが、全ての支度を終えた一行はシーゾーに留守番を頼み、コンテスト会場に向かった。