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 扉を閉めたノアは、ザックの襟をつかんだまま立ち止まる。

「ねぇ、本当は何してたの」

 アーシェリアスが嘘をついているのはわかっていた。

 シーゾーは好物のビスケットを食べて寝ている。

 それなら目を覚ますことはないし、ザックとふたりきりと言ってもいいだろう。

 夜更けに男と女がふたりでいて、顔を赤らめていたとなれば思い浮かぶのはひとつだ。

 ザックは答えない。

 だが、その視線はゆっくりと泳いでいる。

「ボクに言えないようなことしてたってことだね」

「いや……言えないわけじゃないが、ベラベラ話すことでもない、だろ」

 曖昧に答えたザックにノアはイラつき、薄暗い廊下でも美しい金色の頭を叩いた。

「いっ⁉」

 痛みに頭を手で押さえるザックを、ノアは怒気を含んだ瞳で見下ろす。

「ザックはアーシェのこと本気なの?」

 ストレートな質問にザックは目を見張った。

 ノアは視線を合わせるようにしゃがみ込む。

「ザックは王子様でしょ? 婚約者とかいたりしないの?」

「今はいない」

「その言い方、これからはできるかもしれないってことだよね。国の為に決められた相手が」

「……ああ。可能性はゼロじゃない」

「はっきり言っておく。ボクは本気でアーシェが好きだよ」