手を上げた体勢のまま暫く固まっていたアーシェリアスは、シーゾーの「モフー……」という寝言で我に返った。

 静かになった部屋で、バシンと自分の頬を両手で叩いて包む。

(ゆ、夢……じゃないよね? 私、ザックと……)

 重なったはずの唇に指で触れる。

(キス、しちゃった)

 思い出して顔を赤らめたアーシェリアスは、ベッドに倒れ込んだ。

 シーゾーの横で小さくうずくまり、心臓の高鳴りを感じながら目を閉じる。

 明日は質屋を訪ねるはず。

 たくさん歩くだろうし、いい加減に眠らなくては。

 けれど、恋の魔法で興奮した心はなかなか静まることなく、アーシェリアスは甘い溜め息をはくばかりだった。