そんな彼と想いが通じ合ってから、三日。

 恋人らしい接触は、手を一度繋いだだけ。

(というか、恋人という関係なのかも怪しいところね)

 好きだとか愛しているだとか、そんな言葉を交し合ったわけでもなく。

『俺の心にいるのは、今も昔もアーシェだけだ』

 一途な言葉を伝えられ、繋いだ手に想いを込めたのみ。

 だが、アーシェリアスはそれも仕方ないと思っていた。

(ザックは王子様だもの。家の都合で私に婚約者がいたように、ザックにだって望まない縁談話が持ち上がっていてもおかしくない)

 はっきりと伝えられない事情もあるだろうと、港町マレーア領主の伯爵令嬢であるアーシェリアスは理解し、寂しさを飲み込む。

 そもそも、アーシェリアスは王子であるザックについて良く知らない。

 旅をしている理由も不明のままだ。

(でも、今はそれでいい。大切なのは、ザックは旅の仲間で、私の好きな人だという事実だ)

 攻略対象キャラどころかゲーム内に登場すらしなかったザックと出会え、こうして旅をしているだけでも奇跡なのだ。

 その奇跡を大事に、仲間と共に幻の料理を求めて前へと進むのみ。

 アーシェリアスが、膝の上で眠る妖精シーゾーのモフモフした身体を優しく撫でて微笑むと、一行を乗せたホロ馬車はついにエスディオの門をくぐった。