マーシー大修道院図書館にて、アーシェリアスは緩やかな曲線描く木製のカウンターに身を乗り出す。

「でも、お孫さんからここに寄贈されたと伺ったんです」

「そうなんですか。しかし、聞いたことはありませんのぅ」

「一応調べてみてくれませんか?」

 アーシェリアスが一生懸命掛け合うのは、昨日もいた物知りそうなおじいさん職員だ。

 おじいさんは椅子に座ったまま「聞いたことはない」の一点張り。

 話が進まず、運の悪いことに他の職員も見当たらない。

「しかし、聞いたことがありませんしのぅ」

 これでは埒が明かないと項垂れたアーシェリアスの肩に、ザックが手を添えた。

「俺が話をつける」

 ザックは、アーシェに代わるように一歩前へと踏み出した。

「職員の方、申し訳ないが館長に取次ぎを願いたい」

「あー、館長と会うのでしたらアポイントメントが必要でしてな。手順はなんだったか……」

「急ぎで頼めないだろうか。アイザック・ジェセ・ファーレンが来ていると伝えてほしい」

 ザックは王子としての名を告げると、剣の柄にあしらわれている王家の紋章を見せた。

 すると、今までどこかぼんやりとしていたおじいさんの双眸が、たった今目覚めたかのようにみるみる見開かれていく。