「こやま……りか……」

「覚えはありますか?」

 メッセージと名前をジッと見つめる神様。

 その瞳に、じわりじわりと涙が浮かんで、頬から零れ落ちた。

「な、何か記憶が戻りました⁉」

 高揚して訊ねるも、神様はボロボロと泣きながら頭を振った。

「全然。だけど嬉しいんだ。嬉しい。でも、悲しい。それに……これは、恋しい?」

 空っぽだった心が埋まっていくように、神様の瞳に感情が宿る。

(もしかしたら、リンカさんの前世、小山里香さんの存在が、神様の無くした記憶なのかもしれない)

 病で死ぬ小山里香の運命を、神様は自らの大切な記憶と引き換えに変えた。

 大切な人のために、大切な人の記憶を失ったのでは。

 けれど、確信はないのであえて触れず、しかし自分の気持ちを伝えることにした。

「神様、私もリンカさん……里香さんと、同じ気持ちです。キャラを間違えて転生したけど、今、とても幸せだから。神様のおかげ。ありがとう」

心からお礼を伝えると、神様は腕で涙を拭って微笑む。

「それなら良かった。どうか、そなたのこれからの人生にも幸あらんことを」

 ──ありがとう。

 最後に温かな声が聞こえると、神様は本を抱き締め姿を消した。

「……ん? え? 神様⁉ 本は⁉」

 うっかり持っていかれてしまい、焦ったアーシェリアスはいつの間にかベッドで寝ているシーゾーを振り返る。

「シーゾー! 起きてシーゾー!」

「モフすびー」

 一度眠ると起きないシーゾーは、アーシェリアスの声に答えることはなく。

「もう一回神様を呼んでえぇぇぇ!」

 アーシェリアスの悲しい絶叫が響くだけだった。