もしかして、男性に誘われて中央で踊っているなんて展開では。

 そんなまさかと思いつつも、念のため磨かれた大理石の床の上でステップを踏む女性たちを確認したアーシェリアスは……とあるカップルを見つけ、目をひん剥いた。

(破滅フラグペア! 招待されてたのね!)

 くるりくるりと優雅に踊るふたりに見つからないよう背を丸め、急いで広間から脱出しようとしたのだが。

 ──ドン。

 慌て過ぎたせいで、不注意にも広間に入ろうとした人とぶつかってしまった。

「ご、ごめんなさい!」

「んーん、大丈夫だよ」

 そう言ってにっこりと笑った相手は、驚くほどの美少年だ。

「アーシェは怪我はない?」

「私は大じょ……ん?」

 どうして自分の名前を知っているのか。

 どこかで会ったことがあっただろうか。

 良く見ると見覚えがなくもないと小首を傾げるアーシェリアスに、燕尾服を着こなす少年がふふふと笑う。

「気付かない? ボクが誰か」

 ミルクベージュの柔らかな髪と、人形のような可愛らしい顔立ち。

「……え、嘘」

 髪型は、前髪長めのグラテーションボブへと変化しているけれど。

「も、もしかして……ノア?」

 半信半疑といった様子でアーシェリアスが尋ねると、少年は満面の笑みを浮かべた。

「正解! どう? イメチェン成功?」

「大成功だよ! アイドルなら確実にトップを狙える美少年! ジャ〇ーズに推薦したい!」

「よくわかんないけど、ありがと~。アーシェもドレス姿めっちゃくちゃ可愛い!」

 普段オシャレなノアに褒められると嬉しいもので、アーシェリアスは「ありがとう、ノア」とはにかんだ。

 すると、ノアは「ちょっとだけ付き合って」とアーシェリアスの手を取って微笑む。