蝋燭が立つシャンデリアの下を歩き玉座の前に辿り着くと、ザックが丁寧に頭を垂れる。

 その隣で、アーシェリアスも片足を後ろに引いてスカートの裾を摘まみ、挨拶の姿勢を取った。

 そのままの体勢で、ザックが代表して挨拶する。

「女王陛下におかれましてはご機嫌麗しく」

「アイザック、見聞を広げる旅の調子はいかがかしら」

 女王に話しかけられ、ふたりは姿勢を戻した。

「はい、陛下。得るものが多く、充実しています」

「それは重畳ね。この先の旅も頑張ってちょうだい」

「はい」

 まだ帰ってこなくてもいい。

 そう言っているように聞こえ、アーシェリアスはザックの気持ちを慮り、唇をそっと引き結ぶ。

「それで、あなたがレディアーシェリアス?」

 濃く長い睫毛が印象的な切れ長の目が、アーシェリアスを真っ直ぐに正視した。

「はい、女王陛下。マレーア領主ルーヴ家の長女、アーシェリアスにございます」

 心臓はいつもより早鐘を打ってはいるが、ジャガイモ変換のおかげで落ち着いて自己紹介をこなす。

「ルーヴ伯のご息女だったのね」

 呟いた女王は、品定めするような目つきでアーシェリアスを足先から頭の天辺へと視線を移動させる。

「あなたは、あの料理をどこで知ったのかしら」

「え?」

〝あの料理〟とは、昨日アーシェリアスが作ったスパゲティのことだろう。

 だが、どこで知ったかという質問に違和感を持ったアーシェリアスは、答えに戸惑う。