「アイザック殿下、アーシェリアス様と共に謁見の間へどうぞ。陛下がお待ちです」

 衛兵の伝言にザックは小さく頷く。

「わかった。エヴァンとノアは来賓用のサロンで待っててくれ」

「承知しました。行くぞ、ノア」

「うん。アーシェ、頑張ってね」

「ええ、頑張るわ!」

 とにかく失礼のないように気をつけることを心に置きながら、アーシェリアスはザックと共に大階段を上がった。

 快晴の空色に似た絨毯の上を歩き廊下を進む。

 やがて現れたのは、豪奢な扉。

「ここが謁見の間だ。入れるか?」

 ザックに尋ねられ、アーシェリアスは「ちょっと待ってね」と瞼を閉じた。

(落ち着くのよ私。相手が女王陛下だと意識しすぎるから緊張するの。そうよ、前世で体験した学芸会を思い出して。観客はみんなジャガイモだと思ったら気が楽になったじゃない。つまり、女王陛下もジャガイモと思えばいけるのよ!)

 カッと目を開いてアーシェリアスは胸の前で拳を握る。

「よし! 陛下はジャガイモ」

「は?」

 間抜けな声を発したザックは、ワンテンポ遅れて意味を理解し吹き出した。

「ああ、いいなそれ。俺もそう思うかな」

「ザックも緊張してるの?」

「いや? ただ、何を言われてもジャガイモだと思えば痛くもかゆくもないだろ」

 微笑するザックの言葉に、彼と女王陛下の間にある確執を思い出す。

(ザックが傷つくのは見たくないな……)