緑溢れる丘に聳え立つファーレン城。

 総部屋数は六百を超え、歴史を物語る壮麗な外観は見る者を圧倒させる。

 旅行で何度か王都を訪れたことのあるアーシェリアスは、その際に城を眺めたことはあった。

 だが、実際に入城したのは昨日が初めてである。

 といっても昨日はバレットの案内で城門をくぐったあと、裏道を通り食堂へと向かった。

 なので、あまり城らしい景色を味わっていなかったため、今、煌びやかな世界に感嘆の息を吐いていた。

 重厚で大きい扉が開くと、金縁の装飾が印象的なエントランスホールが広がる。

 華やかな空間にノアも口を開けっ放しだ。

「ね、ねえアーシェ。ボク、正装とかしなくて大丈夫?」

 いつもは毒舌で余裕のあるノアも、さすがに怖気づいたらしい。

 自分の服を気にするノアに、アーシェリアスは微笑みかける。

「そのままで十分可愛いから大丈夫よ」

 レースをふんだんにあしらったワンピースを纏うノアの姿は、この城にいて全く違和感はない。

 むしろ自分の方が浮いている可能性があると、そっとスカートを抑えた。

 騎士エヴァンを伴い歩くザックは、いつもの旅装束ではあるが城にあっても馴染んでいる。

(やっぱり王子様なのね)

 大階段の脇に立つ衛兵がザックに頭を下げるのを見て、増々自分の格好が気になってくるがここまで来たら女は度胸。

 令嬢として培ってきた(はずの)教養や気品でカバーしようと前向きに考える。