(はぁ……レオ兄様、素敵だったなぁ……)

 マレーアを出てから二日。

 アーシェリアスは、馬車に揺られながらレオナルドとの別れ際を思い返していた。


『アーシェ、ごめん。俺は仕事でもう出ないといけないんだ』

 朝の早い時間。

 まだナイトドレス姿のアーシェリアスを抱き締めたレオナルド。

『見送れないのは残念だけど、俺はアーシェの無事をいつも祈っているから』

『ありがとう、兄様』

『またいつでも帰っておいで。何を恐れて旅に出たのかはわからないけれど、俺も力になるよ』

 たまにはアイザック様じゃなくて、兄も頼ってくれ──。

 耳元でからかうように囁いて、最後にアーシェリアスの頭を撫でたレオナルド。


(あれ、絶対ザックとのこと勘付いてるっぽい言い方よね)

 もしかしたら昨夜、庭で語らっていたのを見られていたのかもしれない。

 額へのキスも。

 そうだとしたら恥ずかしいのだが。

(ちょっと意地悪なレオって、ゲーム内でもスチルイベントでしか見られないやつなのよね)

 レアな兄の姿が見られて思い出す度ほくほくのアーシェリアス。

 しかしその幸福感も、王都の城壁が見えてくると緊張へと変わる。