次期王位継承者有力候補であるアーサー王子。

 確かにアーサーなら宰相もしっかり対応するだろう。

 だが、ザックの言い方が気にかかる。

「不安って、何か問題があるの?」

「ひとつ、な。まあ、会えばわかる」

「そ、そう? というか、結局甘えてしまう形になってごめんね」

「王子オプションは使える時に使っていかないとな」

 そう言って微笑んだザックに、アーシェリアスは「ありがとう」と伝えた。

 ザックが宰相と直で接触しないとはいえ、リスクはゼロではない。

(もしザックが疑われたら、しっかり説明して誤解を解かないと)

 内心で意気込むアーシェリアスに、ザックが「礼はうまくいってからだ」と返した。

「うまくいっても言うけど、今も言いたいの。ところでもう眠れそう?」

「そうだな。アーシェと話せたおかげで」

 言われて見れば、ザックが纏っていた憂いは見えない。

「良かった。じゃあ戻りましょう」

 アーシェリアスが立ち上がると、ザックも「ああ」と短く返事して腰を上げた。

 そうして、アーシェリアスの足が一歩踏み出した直後。

「アーシェ」

「なに?」

 呼ばれて振り返ったアーシェリアスの額に、ザックの唇が軽く押し当てられる。

「……ありがとう。側にいてくれて」

 兄が、親愛を込めてしてくれる口づけと変わらないはずだ。

 それなのに、アーシェリアスの心臓はひどくときめいて視線を合わせられないほど。

「ど、どういたしまして」

 夜風が通り過ぎて、木の葉を揺らす。

 ふたり、月の光に照らされた頬は、ほんのりと赤味を帯びていた。