「お嬢様、お持ちしました」

「ありがとうクロード!」

 穏やかな微笑みを携えてクロードが押すワゴンで運ばれるのは、白くて丸いデザートだ。

 拳より少し小さなそれが、カラフルな花柄の皿にひとつずつ乗っている。

 クロードがそれぞれの前に配って置くと、レオナルドが顔を綻ばせた。

「これはアーシェが作ったのかな」

 見たことのない変わった料理は大抵妹が作ったもの。

 広間にいる誰もが同じように予想する中、アーシェリアスは笑みを浮かべた。

「正解よ。冷やした方が美味しいから、保冷庫に入れておいてもらっていたの」

 マレーアは、氷の国とも呼ばれるネレーゲン公国からの貿易船も多く寄港する港街だ。

 氷貿易を主とするネレーゲンから定期的に氷を輸入し、販売したものが店や家庭の氷室に保管される。

 ただ、アーシェリアスの前世、日本の一般家庭のように、どこの家でも保冷庫や貯氷庫を持っているわけではない。

 氷の断熱材となるおがくずにも費用がかかるため、裕福な上流階級や飲食店等にあるというのがファーレンでは一般的だ。

 そして、ルーヴ家の厨房にも木製の保冷庫がある。

 その為、アーシェリアスは一年を通して様々な料理にチャレンジできていた。

 そんな保冷庫に今回お世話になったデザートは。

「今日は、ホイップいちご大福を作ってみました」

 にっこりと微笑んで、皿の上の大福に向かって手のひらを広げるアーシェリアス。