夕刻、ルーヴ家の屋敷は明るい雰囲気に包まれていた。

 広間では賑やかな笑い声が聞こえ、食卓には豪勢な食事が振る舞われている。

 マレーアの領主でありアーシェリアスの父であるオスカーは、ワイングラスを片手に客人を見渡した。

「それにしても皆さん、娘の旅に付き合っていただきありがとうございます」

「あ、ボクはアーシェの役に立ちたくて、お願いして旅に連れて行ってもらってるんです」

 ザックと違い、頼まれて旅に付き合ってあげているわけじゃない。

 アーシェだから一緒にいたいんだというアピール笑顔でするノア。

「そうでしたか。そう思っていただける娘は果報者だ。エヴァン殿はアイザック様の専属騎士で?」

「俺は第一王子のアーサー様直属の部隊に所属しています。しかし、俺の腕を買って……いや、信頼か? とにかく! アイザック様をお守りするのは俺しかいない! とアーサー様が推薦」

「護衛として俺につくよう兄から命じられただけで違います」

 エヴァンの熱弁を遮り、ザックが簡潔に答える。

 そのやり取りを見たレオナルドが、隣に座るアーシェリアスに「旅が楽しそうで何よりだな」とクスクス笑った。

「ええ、本当に楽しいの。大変なこともたくさんあるけど、みんなのおかげで旅を続けられてる。改めてお礼を言わせて。ザック、ノア、エヴァンさん、シーゾーも。いつもありがとう」

 アーシェリアスの膝の上でビスケットを食べるシーゾーが「モフー!」と元気よく答える。

「父である私からも感謝を。何より、旅の初めから誓い通り娘をお守りくださるアイザック様に心より感謝申し上げます」

「いえ、アーシェとの旅で得たものがたくさんありました。俺の方こそ、信頼して送り出していただけたこと、ありがたく思います」

 少々真面目な空気になりかけたところで、ルーヴ家の専属シェフであるクロードが広間にやってきた。