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 ミアは、焦っていた。

 まさかザックがあんなにもアーシェリアスを大事に想っているとは想像していなかったからだ。

(こうなったら、アーシェ自体の評価を落とすしかない……)

 幸いにも、これから向かう先は一緒。

 これはきっと天が、神が、自分に味方をしているに違いない。

(誰からも愛されているのは私よ)

 愛される容姿と心を捕らえて離さない振る舞い。

 ミアは生まれてからずっと愛されて生きてきた。

(それなのに……アーシェがアルバート様と婚約破棄してから、何かがおかしい)

 無言で隣を歩く婚約者をそっと見上げる。

 彼の視線は、いつのまにか後ろを振り返り、微笑み合うアーシェリアスとザックに向いていた。

 アルバートがふたりをどんな気持ちで見ているのか。

 ミアにはわからないが、ひとつだけハッキリしていること。

 それは、自分に向けられているはずのアルバートの好意が、エスディオに来てから感じられなくなったのだ。

 それが、アーシェリアスの影響だとしたら。

(許せない……。愛されるのは私だけでいいの。必ず蹴落としてやる)

 自分の人生の主人公は自分。

 愛されるべきは自分なのだ。

 俯いて肩を落としながら歩くミアの瞳は、邪魔でたまらないアーシェリアスへの怒りに満ちていた。