「七菜、口になんかついてんぞ」
七菜の口元に、茶色いソースっぽいものがついている。
「さっきのカラメルソースでしょう。七菜、お口拭きなさいね」
奥からまた、母さんの声が聞こえた。
「はーい!」
七菜はそう言って、ポケットからキャラクターもののハンカチを取り出してゴシゴシと拭くというよりも擦る勢いで拭いた。
「カラメルソース?」
「さっき、クレープ屋さんに行ったのよねー。そこで、プリンの食べたからよ」
ああ、またか。
近くにクレープ屋があり、七菜のお気に入りの店。
俺も七菜の付き添いで何回か行ったことがあるけれど、そこのクレープ屋をしている女の人は、母さんと同じくらいの年齢の人なんだけど、テキパキと働いていて、鈴のように声がきれいな人だった。