「俺……」



「_____今更言わなくていい!」



涙を含んだ叫び声が、紫杏の口から溢れ出た。



「……なぜ、本当にもっとはやく言ってくれなかったの!」



そう言う紫杏の目からは、静かに透明の涙が溢れていた。



「あたしのこと……もう女として見てくれていないんじゃないかって思ってた」



紫杏の言葉が、罪悪感となって俺の心をどんどん潰していく。



「寛太って、ほんとにバカ」



「ごめんな、紫杏」



涙が、紫杏の目から芝生の上へと落ちていく。


俺、最低だ。紫杏はこんなに俺のことを大切に想ってくれたにも関わらず、俺は勇気出せないまま言いたいことも言わないで、温森を好きになっておいて、今頃あの時の気持ちを言おうとする。



「寛太、大体言っちゃダメなんだよ。今の寛太は、紗雪ちゃんが好きなんでしょ? だったら、あたしのことが好きなんて、過去形だとしても言ったらダメなの! 今好きな人を一途でいないといけないの!」



「そ、そうだよな……」



俺って、本当にダメな人間だ。

かつて好きだった女を今こんなふうに泣かせて、今好意を寄せている温森のためにこうやって紫杏を利用してしまっている。



「もういい。紗雪ちゃんを泣かせなきゃいい」



「分かった。温森を泣かせない、約束する」



俺は、紫杏の目をしっかりと見て言った。