木村どころか、そろそろ移動が終わって満席になりかけている教室中がしんとした。
「おい!」
 おまえらっ。
 立ち上がってにらみつけてやるのに、目が合うと端から視線がそれる。

「だって、うわさじゃん」
「見たやついるし」
「1年の女子も言ってたもんな」

 1年の女子? 五十嵐か。
 ケツがどすんと椅子に落ちた。
 こっちが戦意を失ったとたん、それた視線が全部集まってくる。
「てめぇら、腐女子のざれごとなんか信じやがったら――犯すぞ」
 ガタガタと騒々しく鳴る椅子に唖然呆然。
 おれのひと言が英語コンポジ習熟度A、男子率80%の教室に及ぼしたこの影響力。
 ――信じてやがる――


 3時間目。
 国立物基、男子率95%の教室では、おれはもう完全に移動動物園の馬。
 好奇心旺盛なガキどもに、なでられ放題。

でも知らなかったよなぁそういうのってやっぱ生まれたときからなのか? だけど加藤ってやーんとか言わねえじゃん? そりゃオネエってやつでホモじゃないんじゃね? じゃホモって誰とか? 見た目でわかんのか? だって加藤だぜエロ話もろくにしねえ仙人なのにいきなりモーホーってハードル上げすぎくん? てか加藤っておれらの裸見てエロイ気分になってたんかもしかしてうけるー

 すべてのクラスが同じだから、朝からずっととなりに座っていた木村が、ついには「うるせぇぇぇ!」と怒鳴ったほどの大人気。