八つ当たりモードってやつは凶悪だ。
(わり)ぃ。こいつ弟の虎之介っていうんだけど。おまえブラバンのやつらが集まる1時まで音楽室が使えるんだろ? おれが迎えに行くまで、せめて1時間さ、おまえの時間を、このかわいそうな受験生に譲ってやってくんねえ? あとはガンガン叩いててくれていいからさ」
「や、兄ちゃん、ちょっと」
 そうだな、話が違うよな。
 おれは、ひとりでいられる涼しい場所に連れていってやるって言ったんだもんな。
 でも、うそじゃないぞ。
 おまえが受験生だと知った町田は、絶対に音楽室を譲る、大丈夫。
「じゃ、あと頼むな。おれ、遅刻するとまずいから。――虎、一海(ひとみ)兄ちゃんについていきな」
「や。ちょっと待って!」「加藤さん!?」
 うへ、泣くな虎。これしきで。
 町田が困ってるのはおもしろいけど。
「ほんとごめんな、一海」
「…………」
 ほい。重なる名前呼びで町田クラッシュ。
 おれはこれで、こっちがダラダラ脂汗を流してお受験戦士になっているときに、のほほんと毎日ドラムを叩きにくると言った町田に八つ当たり完了。
 なんて爽快。


 ――のはずが。