「ほーら、加藤さん、どぉ? こんなにかわいい子、ちょっといないよ」
 どうやら顔は仕上がったらしい。
 まだ男でも女でもない15歳の少年が、ほんのちょっと化粧するだけで完璧に女になる。
 同じ年頃のおれは絶対にそんなことにはならなかったと思うし。
 おれが見ても美形だと思う16歳の町田に今メイクをほどこしても、こうはならないだろう。
 虎がまとう空気は、五十嵐が自覚せずに持っている、町田やおれへの――異性への(こび)と恥じらい成分を含んでいる。
「ね、とんちゃん、ネイルもしよ? 顔って鏡がないと見えないけど、手は見えるじゃん? 手がかわいいとテンション上がるんだぁ、女の子は。ね」
「沙織…さん――…」
 虎がおびえた目をしばたたく。
 幼稚なイジメのきっかけが、100均ショップでマニキュアのテスターを使っているところを見られたことだ、というのは白状させた。
「頼む、五十嵐。おれ、ぜってぇ勝ちたいんだ。全力で、こいつ、女に仕立ててくれ」
「…………」「…………」
 虎と町田が息を飲む。
 事情を知らない五十嵐は、色をなくした虎の髪をなでながら、おれの横で硬直する町田をちらりと見た。