「他に――なにされてる。まさか…夏期講習の金も――取られてんのか!」
「ぇっ、ぇっ、ぇっ」
「応えろ! どのくらいこのアホを、のさばらせてんだ!」
 怒りで足が出た。
 おれはかわいそうな弟の身体を蹴った。
 ひとりで死にたいほどの絶望を抱えてきた、かわいそうな、まぬけ。
「虎っ。虎…っ」
 でも泣いてくれたから。
 これからはどれほど傷つけても、きちんと抱きしめてやれる。
 おれが両腕を差し出すと、虎は素直に腕の中に入ってきた。
「ぅわぁぁぁあああああ――ん」
「うん…、うん…」
 赤ん坊の頃から泣けばそうしてやったように、頭をなでた。
 どうしたら仕返しができるか。
〔親がいるので出られません明日なら〕
 虎の代わりに返信しながら、頭のなかを渦巻いていたドス黒い暴力の衝動は根性で消す。
 おれが汚れたら、虎が泣けない。
 王女さんが虎に届かない。
「兄ちゃん……、にぃ、ちゃ…ん」
 しがみついてくる虎をあやしながら、そのメールを受け取った。
〔だったら数学のペーパーも仕上げてこいよ 2時に駅〕
 上等だ。

 ――王女さま――

 おれ信じるから。
 どうか、どうか! 
 虎と町田をよろしくお願いします。
 おれは、あんたにかばわれるほどキレイな男じゃないけど。
 もう少しだけ、おれといてくれよ。
 おれはヤツをぶちのめす方法を考えるわけじゃない。
 虎を自由にする方法を考えるだけだから。