王女ちゃんの執事3『き・eye』男の娘、はじめます。

「町田は軽音部員だぞ。バンド組んでねえけど」
「バンド組んでねえ軽音て、あいつ何者?」
 ずっと黙っていた木村が町田についての解説がほしいのはよくわかる。
 なにしろ情けないところを見られた相手だ。
 たとえ(おな)校でも学年の違う男なんて知り合いようもない。
 ホモの恋人でもなけりゃ、なんなのよ気分だぁな。
 でも町田はいませーん。
 説明しませーん。
 あしからず。


「虎ぁ、帰るぞ」
 音楽室の重たい二重防音ドアを開けると、室内は案の定静かだった。
 町田の爆音ドラムは聞こえない。
 虎はひとりだ。
 …と思ったのに。
「あ。兄ちゃん」
 目に飛びこんできたアンビリバボーなツーショット。
 黒板に板書しながら町田と虎が並んで数式を解いている。
「おれ、一海(ひとみ)さんにずっと勉強みてもら――…」
 虎が固まったのはおれのうしろから見知らぬ人間が3人も入ってきたからだろう。