湿気た愛

どうやらお姉さんは目的地へ到着したようで、こじんまりとした一般的な民家に入っていった。

ここがこのお姉さんの家なのだろうと瞬時に理解したほど、玄関を開けた手つきが慣れていた。

玄関に入るその瞬間、私は初めてそこで抵抗した。

流石に、これから何が起こるのかということに恐怖を覚えるしかなかった。


まださっきまでは叫べば人が助けに来てくれるだろうという望みがあったが、密閉された空間となればまた話は別だった。


「やめてください、誘拐ですか?」


度胸がなく語尾が小さくなるが、お姉さんはわたしの目を見ることなく、ただ腕を掴む力がどんどんと強くなるだけで。

そのまま握りつぶされてしまうのではないかと思うくらいに痛くて、目に涙が滲む。


わたしの小さな小さな抵抗もただ虚しいだけで、ひょいっと持ち上げられてとうとう玄関をくぐってしまった。

持ち上げられている間も、わたしは何故か客観的だった。
その華奢な体に、中学生でぷくぷくと太ってきていたわたしを持ち上げる力があることに感心していた。