湿気た愛

私はここへ来てから、すっかり時間感覚というものを失った。

時計がない、外の風景がない、ご飯も不規則。

物差しがなくなったので、眠くなったら寝る、という生活を繰り返して何日か経過した。

初めの方はメモに寝た数を正の字で書いていたがそれも正、正で終わっていた。

でもこれが、本来の人間なのかもしれない。

電車のダイヤに指示される生活はストレスだ。

この生活に何もストレスがないと言ったら嘘になるけれど。

勉強をしなくてもいいし、カイが居るし。
どうしても暇になればカイが読み終わったという優しめの小説でも読んでいたらいい。

どうしても息苦しくなったらお風呂の扉を前回にして換気扇を回せば新しい空気がまわる。


私はここに順応していっているのを感じていた。



そして、日に日にカイに触れたいという思いが強くなっていっていた。

昔何気なく聞いた話で、誘拐犯を好きになってしまうという現象があるという。

カイはまた誘拐犯とは違うが、メカニズムとしては一緒なのかもしれない。


カイのお母さんに見張られると思って気持ちを抑えようとすればするほど膨れ上がっていくこの思いは、きっと寂しさ。