ここで私が逃げ出したりしたら、スタッフの方に迷惑が掛かる。
越水さんは暗にそう言ったのだと思った私は「なんでこんなことに」と思いながらも「どうとでもなれ」と開き直り、試着室へと入った。
「あ。その前に、ちょっとごめんなさい。父に連絡してもいいですか?」
越水さんに聞くと、越水さんが私に代わって父と話をしてくれた。
「お父さん、驚いていたけど、ちゃんと送り届けてくれて、体調を気にかけてくれたらいいってオーケーしてくれたわよ。寛容なお父さんね」
スマートフォンを受け取りながら頷く。
「父は私が普通であることを望んでいますから制限を掛けたりはしません。もっとも、モデルなんか普通じゃないですし、事前に知らせていてくれたらお断りしていましたけど。ほんと、芦屋さんにあり得ないって言いたいです」
ため込んでいた感情が噴き出し、思わず言ってしまった。
それを耳にした越水さんが笑い、言った。
「ハハハ。いいわね。そう。その勢いで交際も断ればいいわ。ただしそれは撮影が終わってからにしてね。芦屋の幸せそうな表情は欲しいから」
それを聞いて少しムッとする。
「越水さんって仕事出来るかもしれませんけど、意地悪ですよね」
嫌味のひとつも言いたくて言ってみた。
でも相手にはしてもらえない。
「褒めてくれてありがとう」
だなんて。


