七夕の伝説



撮影スタジオは想像していたよりもこじんまりとした建物だった。

それでも初めての場所と、芦屋さんと話をしなければならないということが気持ちを落ち着かせなくさせる。

越水さんの後を付いて行くだけで精一杯だ。


「ここが芦屋の控室よ」


そう言われてドクンと胸が反応した。

その直後、タイミングを見計らっていたかのようにドアが開いた。


「菜那!」


芦屋さんの明るい声が聞こえた。

でも私の前には越水さんがいて姿は見えない。


「越水さん、ちょっと邪魔なんだけど」


芦屋さんが越水さん越しに姿を見せてくれた。

そこには柔らかな笑みを浮かべた芦屋さんがいて、胸がまたトクンと反応する。


「菜那!会いたかったよ。さ、入って、入って」


背中を押されて慌てる。


「あ、あの。私、モデルはお断りしたいんですけど……」


そう言いながら、目の前に飛び込んできた光景に驚き、言葉を失う。


「わ……綺麗……」


ハイネックに長袖の純白のドレス。

初めて間近で見た吸い込まれそうなくらい美しいウェディングドレスにくぎ付け。

モデルの話しはどこへやら。

導かれるようにドレスに近づき、それから芦屋さんを振り返って聞く。