「そう」
それから私の表情を確認するように横目で私を見てから続けた。
「緊張しているみたいだったからモデルが相当嫌なのかな、と思っていたけどそうじゃなかったのね」
言われて表情が強張っていることに気付き、顔を隠すように俯くと越水さんが「ごめんなさいね」と言った。
「どうして越水さんが謝るんですか?」
「私が高校まで連絡しなければ、控室まで案内しなければ、如月さんが芦屋に惹かれることも、芦屋が如月さんに惹かれることもなかったんだもの。それに」
そこまで言うと越水さんは赤信号で止まったタイミングで私の方を見て言った。
「今日だって如月さん以外のモデルを手配することも出来たの。でも芦屋に気持ちよく仕事して欲しかったから、如月さんの気持ちより、芦屋を優先してしまった。だからごめんなさい」
越水さんは小さく頭を下げてからゆっくりと顔を上げ、それからハンドルを手にして信号が変わったのを確認して車を発進させた。
「モデルのお話はなんとかなりませんか?」
私が知らなかったことは今の話の流れでわかったはずだ。
それなのにも関わらず、越水さんはおかしなことを言う。
「最後に如月さんの望みをひとつ叶えてあげたいから」
「私の望み?」
いったい何の話なのか。
よく分からずに復唱して聞き返してみたものの、越水さんは微笑むに留め、そのまま目的地に送り届けられてしまった。


