七夕の伝説


「全身コーデならいつでもしてあげるから言ってよ。なんなら今からでも…って、あ、それは無理か」


『寄り道しないで帰って来るんだよ』


仕事で忙しいのに、毎年必ず誕生日をお祝いしてくれる父の言葉だ。

申し訳ないと思いつつ、ふたりが放課後お祝いしてくれるという誘いを、父を理由に事前に断っていた。


『16にもなって家族でお祝い?』

『如月さんってお嬢様なのね』


聞いていたクラスメイトに笑われた。

冗談半分だったのだと思う。

でも佳苗と理絵は家族との時間を優先した私を庇い、笑ったクラスメイトに対して『家族大事でしょ』と正論をぶつけて怒ってくれた。

事情を話していなかったのに。

だから余計に嬉しくて、毎年、誕生日まで生きられるかという不安を抱き続けていた私と父にとって誕生日は特別で、家族の時間は何より大切なのだということを、自分の体のこと、病気のこと、家庭のことを含めて話した。


「今度の休みの日に買い物に行こうね」


佳苗の言葉に笑顔で大きく頷き、三人で下校。
ふたりとは駅で別れ、電車に乗り込んだ。