「ごめん。重い話で。高校一年生で結婚とか出産とか、現実的じゃないよね。あぁ。ダメだな、私は空気読めなくて。ほんとごめん。ごめんね」

「ううん。私こそ、ごめんね、だ」


理絵の低い声に目を向けると、突然理絵が頭を下げた。


「え?ちょっと、どうしたの?頭上げて。ね?」


覗き込むようにして懇願すると、理絵は顔を上げてくれたけれど、その目には涙が浮かんでいた。

初めて目にする友達の涙に驚くと同時に胸が痛んだ。
 

「ごめん」


もう一度謝ると、理絵は大きく首を横に振り、涙を手で拭ってから言った。


「菜那が謝ることじゃないよ。謝るべきは私。私、菜那のこと知ったつもりになっていた。菜那の病気がどれだけ大変で、どれだけ複雑な想いを抱えているのか、全然わかっていなかった。それなのに万が一、なんて話して、本当にごめん。本当に、ごめん」

「理絵。謝らないでよ。理絵の助言にはすごく助かっているんだよ。佳苗の優しさもありがたいし、ふたりがいてくれるだけですごく幸せなの」


そこまで言ってから理絵と佳苗の顔を順々に見てから続きを口にする。


「私、神様にね、お父さんを看取らせてください、ってお願いの他に楽しく過ごせたら、もうそれで充分です、っていつもお願いしているの。だからね、きっと神様が理絵と佳苗に出会わせてくれたんだって思っている。だって毎日すごく楽しいもん。恋愛なんて要らないくらいに。むしろ恋愛がなかった時の方が悩むことなかった分、思い切り楽しめていた。学生生活をエンジョイしていたんだよ」

「エンジョイって」


理絵に笑われて、私もつられて笑うと、理絵は椅子から立ち上がり、私のそばまでやってきて、私の体をギュッと抱き締めながら言った。


「芦屋星に負けないくらい、私が菜那のこと愛してあげる」

「私も」


佳苗はそう言うと、理絵ごと私を抱き締めて言った。


「菜那がずーっと笑顔でいられるように、楽しい毎日にしてあげる」

「佳苗。理絵も」


ふたりの温もりと気持ちが目頭を熱くさせる。


「ありがとう…本当にありがとう」


いつかふたりは恋をして私から離れて行ってしまうだろう。

それでも今、この瞬間のことは忘れない。

私の人生に恋愛はなくても大丈夫。

そう改めて思えた瞬間だから。