七夕の伝説


なんとか誤魔化してみたけれど、長年の付き合いの昴には通用しない。


「あいつの気持ち、分かってんなら早めに教えてやれよ。菜那が恋愛しないって決めていること」

「あー、うん。でも、どうやら恋愛は体にいいみたいなんだよね。恋愛しないっていう話、ちょっと考えなおしてみようかなと思って…って、別に芦屋さんと、ってわけじゃないけどね」


慌てて取り繕っても、これじゃ、芦屋さんと恋愛したいって言っているようなものだ。

諦めて、昴に正直に話す。


「あの人、芸能人の芦屋星なの」

「マジか」


抑揚のない言い方でも、どうやら驚いてはいるらしい。

昴の足が止まった。


「やめておいた方がいいと思う?」

「いや……それは、俺には答えられねーわ」


昴の言う通りだ。

結局、どうしたいのか、決めるのは自分自身。

有名人と付き合う覚悟があるのか、今の気持ちだけで突っ走っていいのか、後悔しないのか。


【今日は楽しかった。傘もありがとう。今度返す。今すぐにでも会いたい】


帰宅後に届いたメールの文面を見て胸が苦しくなった。

病気じゃなければ芦屋さんと出会うことも、好意を寄せられることもなかったと分かっていても、病気じゃなければ悩むことなく飛び込んでいけるのに。

そう思わずにいられなかったことが余計に苦しかった。