七夕の伝説


「ダメ、かな?」


黙ったままの昴に必死で答えを求めると、昴は私から芦屋さんに目を向け、芦屋さんの手に私が愛用している折りたたみ傘があるのを見た。


「駅で借りたら?」


昴が芦屋さんに向けて言ったので、慌てて誤解を解く。


「私が貸したの」

「なんのために?」


昴の疑問に答えたのは芦屋さんだ。


「また会う口実。だよね?菜那」


名前を呼ばれて芦屋さんの方を向くと、その瞳は昴を見ていた。

なぜ?と思いながら芦屋さんを見上げていると、芦屋さんは私の視線に気付き、身を屈め、耳元で囁いた。


「他の男との相合傘なんて許さない。でも、また絶対に会いたいから、これは借りていく。ちょっと待っていて」


耳が熱い。

それを見られないように手で押さえ、俯く私から、芦屋さんはゆっくりと離れ、駅舎の方へと足を向け駆けて行った。

それからすぐに戻ってきて駅で借りてきた傘を私に手渡した。


「あ…ありがとう、ございます」


たどたどしくお礼を伝え、傘を受け取ると、芦屋さんは満足そうに微笑み、手を振って改札を戻って行った。