「あ、雨だ」
気持ちの整理がつかなくて、考えることも放棄してぼんやりしていると、電車を待つ他の乗客の声が聞こえた。
空を見上げれば、たしかにそこから雨粒が落ちてきている。
「早めに上がるといいな」
「そうですね」
と言ったものの、希望は叶わず。
最寄り駅に下車してもまだ、雨は降り続いていた。
「傘、持っていますか?もしないようなら私、折りたたみ持っているのでどうぞ」
「菜那は?」
「私は駅で借りるから大丈夫です」
登校の時に返せばいいだけの話だと、駅舎を見ながら答え、鞄から折りたたみ傘を取り出す。
「ピンクの花柄って」
芦屋さんは笑うけれど、女装している芦屋さんなら持っていても違和感ない。
「それと折り畳みは小さいので念のため、これ。返してもらったばかりのハンカチで申し訳ないですけど、未使用なので」
「使わなかったんだ。じゃ、また遠慮なくお借りします」
そう言って芦屋さんが手を伸ばしてきたので、折りたたみ傘を差し出すも、芦屋さんはハンカチだけを受け取ろうと手を伸ばした。
「傘も、遠慮なさらずどうぞ」
押し付けるように差し出した瞬間、芦屋さんの手が触れた。
鎌倉では平気で繋いでいたのに、意識してしまっているせいで、パッと離す。
バサッと床に落ちた傘。
それを芦屋さんが拾ってくれた。


