「七夕の日、俺が怪しい格好していたの、覚えている?」
「はい」
顔のほとんどを覆っていた姿は記憶している。
「芸能人ってバレないようにするためですよね?」
「そう。変装してでも七夕祭りに行きたかったんだ」
それは芦屋さんの実家が七夕祭りで有名な仙台にあることが関係しているらしい。
「両親は俺が芸能活動するのを反対していたんだ。不規則な生活と体に負荷が掛かるといけないからって。でも、事務所は配慮してくれるって言っていたし、なにより、金を稼ぐこと、支援団体を作ることを目標に生きていこうとしていた俺は『俺にはやるべきことがあるんだ』って、聞く耳を持たずに家を出た」
「ご実家には帰っていないんですか?」
聞くと芦屋さんは小さく頷いた。
「忙しくて帰る暇もなかった。どの面下げて帰ったらいいのかも分からなかったし。だからかな。ちょうど近くで撮影していて、地元に想いを馳せる意味で空き時間を利用して七夕祭りに行かせてもらっていたんだ。雨で七夕の飾りも祭りも結局は見られなかったけどね」
「ひどい雨でしたからね」
また横断歩道で止まったタイミングだったので、隣を見上げると、芦屋さんはこちらを見下ろし、ニコリと微笑んだ。
「でもそのおかげで菜那に出会えたんだよ」
優しい瞳で見つめられてドキッとした。
慌てて視線を芦屋さんから信号機の方に向き直る。
そんな私に気付いていながらも、芦屋さんはからかうことはせずに、青に変わってから話しを続けた。
「初めはさ、なんでこの子、こんな異常にパニックになっているんだろ、って思ったんだ。でも菜那が小柄で色白だからかな。すごく弱々しく見えて、放っておけなくて、声を掛けた。ただ、本当の菜那は、芯の強い女の子だった。『親より長生きしたい。看取りたい』って話は衝撃的だったよ」
そこまで話してくれたところで一旦、会話は中断。


