芦屋さんの背後に見えるのは鶴岡八幡宮。
『願いを叶えて欲しければ』
そう言わんばかりに、絶妙のタイミングで神がその存在を現した。
『どんなに惹かれようとも、感情と理性のズレが胸を苦しめようとも、きみの願いはひとつだろう?』
そう私に問いかけてくる。
だから私は芦屋さんへの気持ちを封じ込める。
そしてその決意を言葉にしようと思った瞬間、「うわぁ!素敵」という観光客の歓声が耳元に届いた。
「なんだ?」
芦屋さんが目を向けたので私も一緒に声のした方を見ると、境内の中を歩く白無垢姿の花嫁さんと袴姿の花婿さんの姿が目に飛び込んできた。
「うわぁ…綺麗」
あいにくの曇天でも、ふたりの笑顔は晴れやかで、こちらの気持ちまで高揚させてくれる。
私も周りの人同様、ふたりの姿に見惚れてしまう。
そんな私に芦屋さんが問いかけて来た。
「菜那も白無垢とかウェディングドレスって憧れるの?」
「はい。それはもちろん。小さい頃の夢はプリンセスになることでしたから」
フワフワのドレスを着て、王子様とダンスする。
夢みたいな世界に憧れていた。
今もたまに絵本を引き出し、夢心地に浸る時がある。
年甲斐もなく、と言われそうだから言わないけれど。


