「キスはさすがに嫌だった?」
視線を合わせない私に、しびれを切らした芦屋さんが「キス」という単語をはっきりと口にした。
「菜那には、からかっているなんて思って欲しくなかったから」
「それは、そうですよね」
その点は、たしかに私が悪かった。
「すみません」
言われて気付かされた。
だから立ち止まり、芦屋さんに頭を下げて謝ると、芦屋さんは繋いでいる手と逆の手で私の頭に触れた。
「菜那は本当に素直ないい子だよね。俺の彼女にするにはもったいないくらい」
彼女になって、とか、もったいないとか。
どっちなんだろう。
そう思いながら隣を見上げると、芦屋さんの眉根を寄せた切ない瞳に触れて胸が苦しくなった。
頭では恋愛をしてはいけないと分かっているのに、芦屋さんにそんな顔させたくないと思ってしまう。
私の返事ひとつで笑顔に出来るのなら『好き』だと言葉にしたい。
そのくらいはもう芦屋さんに惹かれているのだと気付かされた。
でも、それを言葉には出来ない。


